関西を中心に建築設計に携わっている建築事務所「ウズラボ」(兵庫区)。代表のタケウチさんにお話を聞いた。市内の事例から浮かび上がってきた関係性や、大阪などの事例を含めたリノベーションの考え方をたっぷり話していただけた。前編・後編の2本立てでお届けする。

●倉庫物件をフルリノベーションし、現代的な空間へ

兵庫区はもともと木材の輸入や造船関係の鉄鋼業で町工場が栄えた背景があるエリア。現在そういった事業は衰退し、使われなくなった工場や倉庫が増えてきている。
今回お話ををうかがった「MATSUMOTO COFFEE warehouse」は、いわゆる一般的な倉庫物件をフルリノベーションし、現代的な倉庫兼店舗へと生まれ変わった。

(「MATSUMOTO COFFEE warehouse」外観、紺色の外壁がリズミカルな開口部を際立たせる)**
(改修前の外観、畳屋の倉庫だった(左))*** (ほぼスケルトンの施工前、既存壁材のOSBをそのまま流用したところも多い(右))***

「床や天板など、一部の塗装はマツモトコーヒーさんがDIYで仕上げています。OSBの壁材はもともとあった既存の仕上げです。コストを下げるために既存の壁材を使いつつ、新しい素材をあてがうことで全体的に自然な感じで仕上げ、空間を整えました。マツモトコーヒーさんは、新たな事業展開をおこなうにあたって、コーヒー豆を輸入して出荷するまでの工程・管理をお客様にしっかり見せたいという明確なビジョンをお持ちでした。そのビジョンを建築として表現するために、大きな空間はそのままに、柱や垂れ壁を使うことでゾーンに分けつつも一望できるように空間を整理整頓しました。」

「階段の踊場や一部のカウンターで六甲山の間伐材を使用しています」とのことだった。さらに詳しく聞いていくとこのエリアならではのお話を聞くことができた。

(階段の踊場や一部のカウンター材は六甲山の間伐材を使っている)**

●木材を使うことから浮かび上がってきた関係性

ウズラボさんの建築設計で木材を多く使っている印象があったので、理由を伺うと「木材を使うということに対して最初からポリシーやビジョンが明確にあったわけではないです」と話すタケウチさん。むしろ、木材を使うきっかけは「たまたま」だったという。しかし、そこから地域の関係性が浮かび上がってくることに。
「もともと身内が兵庫区で木材の加工業を営んでおり、いろいろな事情でそのすぐ近所に事務所を構えることになりました。木材を使った仕事をしている町工場が多くあったところなので、近所には材木屋さんもありました。事務所の内装を考えているとき、売り物にならなくなったデッドストック材を材木屋さんから安く分けてもらうことができれば大幅にコストを下げることができるのではないかと思い、実践しました。

また、身内が木材加工業なので木材に関する相談がしやすく、幅や厚みが違う材料でも簡単に美しく仕上げる加工を施してもらいました。いろいろな形状に材を加工できなければ、何を作っても精度が上がらず、せいぜい日曜大工レベルにしかなりません。でも町工場の木材加工レベルは非常に高いので、きちんとした加工を依頼すれば、どんな材でも精度の高い納まりが可能となります。商品化できるレベルの仕上がりです。兵庫区に住むようになって自分がとても恵まれた環境にいると気づきました。そこから、木材を使うということを強く意識し始め、いろいろな可能性が広がりました。」

(ウズラボオフィスの壁面、デッドストックの無垢材に特殊なサネ加工を施している)*
(無垢材を加工したオリジナル壁材(左)*や取手(右)***)

「最近では、シェアウッズの山崎正夫さんがマルナカ工作所(兵庫区)の運営を始めました。木材に関する相談は以前からしていたのですが、グッと距離が近くなりました。彼は六甲山の間伐材の活用にも取り組んでいるのですが、山から下ろしてきた原木は兵庫区内にある三栄株式会社で製材しています。三栄さんには「MATSUMOTO COFFEE warehouse」で使用する材を入れる際にもたくさんご協力いただきました。三栄さんの隣には北欧の家具と雑貨のお店「北の椅子と」さんがあるのですが、そこのカフェはいつ行っても知り合いに会う、この地域のコミュニティスポットになっています。「MATSUMOTO COFFEE warehouse」では、「北の椅子と」さんで選んだ椅子とサイドテーブルが使われています。近所の小さなエリアの中で木を使うプラットフォームが揃っていて、それぞれの特性がうまく機能したという感じです。

こういった繋がりは、仕事だけではなく、プライベートでも複雑に絡み合っています。小学校のときの同級生だったり、子どもの保育園が一緒だったり、近所のスーパーに行けば出会ったり。限定されたエリアだからこそ生まれる、付かず離れずの関係性によって程よい緊張感と連帯感が形成されています。」

かつて材木業が栄えた地域だからこそのつながり。ただ、そういった町工場も現在は衰退、減少している。「せっかくの技術がこのまま無くなるのはもったいない。何かいい方法はないものかと模索している」とタケウチさんはいう。

(阪神高速の高架と国道2号線に面した場所に建つ「MATSUMOTO COFFEE warehouse」)**
(高圧木毛セメント板にクリア塗装仕上げの壁面で囲まれた改修後の内装)**

●近所には木材だけじゃなく鉄もあった

(近所の鉄工所で溶接してもらった曲げ加工した鉄パイプ)
(マンションのリノベーション物件でハンガー掛けとして設置)***

お話を聞いていくと、近所には鉄工所もあるという。別のリノベーションで使用した鉄パイプの造作を見せてもらった。
「鉄の造作も木材と同じように近所の鉄工所で加工してもらっています。先日、鉄のパイプを曲げて溶接してもらおうと思って相談に行きました。でも、パイプの曲げ加工は別の町工場でないとできないと言われました。仕様を考え直さないといけないのかなと思ったところ、そのパイプ屋が近所にあるということで、すぐに車で連れて行ってくれました。それぞれの町工場に得意分野があって、できないことは地域でフォローする。そんな関係性が鉄の加工でも構築されていることに気づかされました。これまでは木材を中心に地の利を活かしてきたけれど、鉄も絡ませることができればもっと可能性が広がると思いました。」

兵庫区、長田区は木材ばかりでなく、造船、鉄鋼業が栄えた地域。そのポテンシャルの高さが伺えるエピソードだ。

(後編へつづく)
※記事内の文章は原文を尊重しています。

竹内 正明(たけうち・まさあき)
ウズラボ代表
○PLOFILE
1973年大阪府生まれ
2002年に小池志保子とともにウズラボを共同設立、
2006年より代表
住まいに関するさまざまな事柄をデザインするとと
もに、文章の執筆や講演、大学教育に携わるなど、
建築を通じて幅広い活動をおこなっている。


○画像提供(*梅田彩華/**多田ユウコ/***ウズラボ/みんなでつくろう編集部)