団地やマンションの『管理』が年々委託管理に移行していく中、垂水区の団地『塩屋住宅』では役員と住民が協力しながら、自主管理をしているという。長く続く自主管理の秘訣を役員の方たちに聞いた。

(右:今年度理事長の浦山さん)

マンションや団地などの集合住宅に住む場合、住人は毎月『管理費』や『修繕積立金』を支払い、『管理組合』が設備のメンテナンスをはじめ、建物の維持管理を行っている。一般的な集合住宅の管理費は2~3万円程度が多い中、塩屋住宅は管理費と修繕積立金を合わせて1.2万円とかなり安い。世帯数も多いので、修繕積立金もかなり貯蓄されている。塩屋住宅の管理費が安い理由は、長く続く「自主管理」という方法で自分たちが主体で管理していることだ。

ただ、多くの集合住宅で自主管理は、管理組合役員の高齢化や、引き継ぎの不在によって年々減ってきている。近年は外部業者への「委託管理」という方式がほとんどだ。委託管理は管理会社が管理運営を行うので、住人の手間を大きく減らすことができる反面、管理費や修繕積立金が上がることになったり、住人が建物の管理状態を把握できなくなるというデメリットもある。

(団地「塩屋住宅」/塩屋駅から徒歩で10分程度登った坂の上に6棟ある。)

そんな中、塩屋住宅の自主管理が長く続いている秘訣はなんだろうか。ポイントはいくつかある。まず、管理組合の役員の数が17名と多い。団地の1列(同じ敷地上の1階から最上階まで)に1名づつという理由だそうだが、これが活発なコミュニケーションを生み、居住者がサポートしあえる関係になったり、住人の状況や補修、メンテンナスのノウハウがたまっていくことにつながる。

(左:塩屋住宅。右:塩屋住宅の一部の住居には海を見下ろすビューがあり、気にいる人も多い。)

例えば、大規模修繕にあたり、「どこの業者がいいのか?」「どういった工法でするのか?」「以前はどのような改装を行ってきたか?」についての情報が蓄積されている。そして、昔から住んでいたり、専門の知識を持つ住人に修繕の相談をしながら進めているとのこと。このエピソードだけでも、管理組合と住民の間で良い関係が築かれているように感じる。昔は多くのマンションや団地も似た感じだったのではないだろうか。

また、めずらしい事例かもしれないが、塩屋住宅の管理組合は自治会と一本化されているということだ。管理組合は主に建物の維持管理を行い、自治会は区域内の課題解決や親睦を深める活動を行う。ほとんどの地域は別々になっていることが多い。
塩屋住宅も昔は別々だったが、塩屋住宅は管理組合の区域と自治会の区域が同じで、それぞれの役員を選出するのが面倒だったということが理由らしい。建物の管理、設備面以外にも、福祉の一環でラジオ体操や登山散歩を行ったり、ゴミ捨て場の管理や清掃といった環境面も管理組合が運営している。ハード面とソフト面が一本化していることは大きなポイントだ。

住民が主体的に管理運営をしている塩屋住宅。今回は役員の中から現理事長、前理事長、管理人の3名に、役員になった経緯や管理運営の内容などのお話を聞くことができた。

「住人が出会えるきっかけづくりをしている」(過去に理事長経験のある櫻井さん)

(左:塩屋団地のDIYマン、櫻井さん)

櫻井さんは数年前に理事長をされていた。11年ほど前に、孫ができたことをきっかけに、塩屋住宅に引っ越しをしてくることになった。坂道はあるが駅からも近く、景色も良い団地がとても気に入ったそう。数年前に櫻井さんが理事長をされ、そのときにはじめたことが今も継続して行われている。ひとつは集会所の駐車場にある共有の図書館である。

(左:共有の図書館。小説から漫画までかなりの数が並んでいた。右:柵の間から猫が入るため、こちらも櫻井さんがDIYして上のように。)

こどものたまり場になっているこの場所で本が共有できたらという思いから始まり、団地の皆さんに認知され、順調に書籍は増えていった。いまでは並べきれないほどの量になっているそうで、新刊も多く団地外からの利用者もあるそう。

(ひまわりカフェのメニューとおしるこ。安い。)

もうひとつは集会所を開放して、ひまわりカフェの運営を2ヶ月に1回はじめた。飲み物(ウィンナーコーヒー、ジュース、しるこ)は100円、デザートは50円と破格で、子どもはさらに半額になる。テーブルにはフリーで食べられるおやつも並ぶ。ご高齢の方や子どもが遊びにこられるそうで、高齢者の方も集まれるいい機会になっているとのこと。近年は、子育て世代の家族の世帯数の流入も多く、子どもも増加傾向にあるそうで、子どもはもちろん、親にとってもありがたい場所だ。もちろん図書館と同様に団地外の利用者もあるそうだ。

櫻井さんも団地内同居の孫がいる。親族が他世帯で同じ団地に住むという形をとっており、同じように孫ができて、団地にもどって子育てを手伝う世帯もいくつかあるそうだ。

櫻井さんは役員をやめた後も、管理組合のサポートを積極的に行っている。
たとえば管理人室の床。管理人さんが来客のときにせまいスペースに難儀していたことから、自ら工具を持って床を施工した・・すごい!

(櫻井さんがDIYで作った、管理人室の床)

「管理を始めてはや20年、塩屋住宅に骨をうずめる覚悟で管理している」(管理人の中浦さん)

(管理人の中浦さん。気さくで明るく、人当たりの良さが溢れていた。)

中浦さんは当初、愛媛の松山から引っ越してきた。塩屋の文化住宅に住んでいたが賃料ももったいなく感じて、手頃な価格で購入できる団地に引っ越しを決めた。前に管理をしていた人が引退されて、引き継ぎをする形で管理人になったそうだ。

日中は管理室に常駐していて、役員の業務が潤滑に行えるように調整を図る。過去どのような管理を行ってきているか把握しているので、他の役員の方も中浦さんのサポートのおかげで、いろんな業務を行えるということを言われていた。もちろん管理人業務の報酬は管理会社ではなく、中浦さんに支払われている。

また、塩屋住宅の住人を家族のように思い、最近会っていない人がいれば積極的に声をかけたりもしている。中浦さんはあくまでサポートに徹しながらも、自身の住む塩屋住宅と住人をとても大切に、愛着を持って管理している。多くは管理会社がやっている業務だが、ここまでできる管理会社はないのではないかと感じた。

最近、中浦さんのところには夕食が届けられるようになったらしい。そんな人格的な魅力が中浦さんにはある。

(2階が集会所、1階に管理人室や共有の図書館がある。)
(中浦さんの職場、管理人室の扉。)

「地域を知るきっかけになるかなという気持ちで引き受けた」(現理事長の浦山さん)

(理事長の浦山さん、先輩の役員の方達にサポートしてもらい助かっていると言う。)

今年度の理事長、浦山さんは徳島県から仕事の都合で関西に移り住んできた。
神戸で不動産屋を回って、最初に見た塩屋住宅が気に入った。その後の不動産見学はキャンセルして、塩屋住宅に住むことに決めたそうだ。

塩屋に住んで1年半ほど経ち、生活にも慣れ始めた頃、役員を決める会合で理事長にならないか?という話が持ち上がった。神戸、また塩屋のことはあまり知識がなかった浦山さんも、地域を知るきっかけになるのではないか、という軽い気持ちで引き受けた。

塩屋住宅の役員は輪番制になっており、若い人が役員をすることも多いため、昔から住んでいる人も役員に入り、若い人のサポートに回るという傾向にある。ここ数年は理事長にも若い世代が任命されており、塩屋住宅の役員は次世代に管理を引き継ぐという流れができているそうだ。

●取材を終えて

地域や集合住宅に住んでいても、自治会や管理組合の役割をいやがる人は多い。生活の負担になったり、役員として努力しても、住民同士のコミュニケーションを望まない人もいるからだ。そのため自主管理は住民の負担も多く、健全な運営を長く続けることが難しい。しかし塩屋住宅の人たちはそれを前向きに取り組み、長く続けている。とてもめずらしく、すごいことだと思う。

今回お話を聞けた三人もそれぞれ魅力を感じる方たちだった。中でも管理人の中浦さんは塩屋住宅には欠かせない存在だ。中浦さんは管理人に徹している。決して表には出てこないが、何か困ったことがあれば、中浦さんからの助言やサポートで解決していく。まるでコミュニティデザインのあり方を体現しているかのようだ。勝手ながら、中浦さんのような人がいる地域は安心した毎日が送れるに違いない。

元理事長の櫻井さんはスーパーDIYおじいちゃんであり、アイデアを出しつつ自ら手を動かして、良い状況を作り出していた。櫻井さんのひまわりカフェなどの活動は広義でのリノベーションと言えるのではないかと思う。

現理事長の浦山さんは塩屋住宅では若い世代に入る。敬遠されがちな管理組合や地域の役員という役割を、地域を知るきっかけと捉えて引き受ける姿勢は見習いたいところである。

そして何よりも根本の所で、自分たちの住む場所、地域に愛着がないとうまくいかないと思う。今回、取材させていただいた3名もみなさんそれぞれに、自分の住む場所やエリアへの愛着があった。またその思いを継いで持ってもらおうと若い世代をサポートすることは、他の地域でも参考になるのではないだろうか。

住人の負担軽減のための委託管理も良いけれど、負担をみんなで助け合う方法がこれからもっと重要になってくるように思う。

※記事内の文章は原文を尊重しています。
(画像:みんなでつくろう編集部)