普段は仕事をしながら休日を使ってDIYでリノベーションを行う人が増えてきている。渡辺祥弘さんは地方公務員だ。神戸市役所で働きながら、長田区にある木造長屋をきっかけにDIYでリノベーションを始めた。現在は同じ職場の仲間たちと、リノベーション等のワークショップを通して、地域とのつながりを重視した活動にチャレンジしているとのことでお話を伺ってきた。

1.地方公務員たちのDIYチーム

(チーム コアクション。左から髙見大地さん、渡辺祥弘さん、佐藤直雅さん)

働きながら、休日などの空いた時間を使ってDIYで改修する人が増えつつある。当サイトでも過去に平井陽さん(記事はこちら)や西村周治さん(記事はこちら)を取材、紹介させていただいた。
今回取材させていただいた渡辺さん、髙見さん、佐藤さんは神戸市で働く地方公務員だ。普段から地域と向き合っている人たちが、仕事以外のプロジェクトを通して地域に入っていくケースはめずらしいのではないだろうか。3人はコアクションというチームを結成し、主に空き家のリノベーション等のワークショップを通して、地域とのつながりを重視した活動をしている。3人とも学生時代に建築を学んでおり、建築に対する知識や興味はあるが現場経験はほとんどなかった。そこで、プロに実践的な建築を学びながら、DIYによるリノベーション活動を始めた。

2.チーム発足のきっかけとなった長田区の空き家リノベーション

(築100年強の木造長屋、天井はむき出しで断熱をして、壁は合板仕上げ。)
(施工前の外観。もともとは隣も含めて4軒分の長屋だったらしい。)

コアクションの最初の活動拠点となった長田区の物件は、大正8年に建てられた木造の旧長屋。長田区南部には昔ながらの長屋の風景が残っているものの、空き家は増え続けている。

この建物も相続を契機に使われなくなり、活用に苦慮されていた。その時、オーナーから相談に乗っていたのが渡辺さんであり、なかなか住まい手が見つからない中、建物に興味を持ったのが髙見さんだった。オーナーにここに住みたい旨を伝えたところ、快く了解をいただいた。また、建物は古く、傷んでいる箇所もあるため自由に改修して良いとの事。ここからコアクションの活動が始まった。もともと建築の知識はあるが、現場経験はなく、改修現場に携わりたいと思っていた渡辺さん達にとってはとてもありがたい話だった。同じ想いを持った佐藤さんを仲間に加え、建物の改修計画を練る事に。

(土間打ちワークショップの様子)
(買い付けてきたシンボルツリーとドラム缶をカットして作ったシンク)

DIYで進めていくにも3人とも初心者のためどう進めれば良いか分からない。そこで、もともとつながりのあった建築士の合田さんに相談し協力をしてもらうことになったという。プロに習いながら作業を手伝い、できる部分は自分たちで進めていく流れでリノベーション作業を進める事とした。そして地域の人たちや、建築に興味のある人たちと経験の場を共有し、繋がることができればと、物件のリノベーション作業のほとんどをオープンにし、「解体ワークショップ」や「土間打ちワークショップ」等を企画し、みんなで作っていったとのこと。

DIYで改修された旧長屋は天井も高く開放的で、歴史を感じる梁もむき出し。買い付けに行ったというシンボルツリーも存在感を放っていた。また、ドラム缶を切断して作ったシンクなどもDIY感が出ていた。

1Fはほぼ完成して、現在は髙見さんが住みつつ、地域のイベント等がある際には無償で場所を解放することもしている。「これから2階の和室を改修して髙見さんの居室スペースを作る。」とのことだった。

3.塩屋の古物件を改修

(現在改装中の塩屋の物件)

現在、コアクションは、垂水区塩屋駅から徒歩7分程度のところにある古アパートを改修中だ。取材時は施工はほぼ終盤で、10月には完成予定との事。物件はほぼ下地の状態だったが1F、2Fともに特徴的な柱があった。このシンボルツリーは長田の物件にあったシンボルツリーと同じく、奈良県吉野まで買い付けにいったものだそうだ。2Fには安く購入できたという檜風呂を設置予定としている。

(左:安く購入できたという檜風呂 / 右:専門的なところはプロに依頼。)
(解体作業は経験済みで作業も順調だったとのこと。)

塩屋も長田と同様に、改修工事は、プロに任せるところは任せ、自分たちでできるところをプロに習いながら行った。渡辺さんたちは主に解体作業を行い、プロと一緒に内装を作っていったという。この物件は渡辺さんが所有することになったもので、1Fはチョコレート屋さんが入ることがすでに決まっているとのこと。2Fは住居スペースとして作っていくとのことだった。

4.地域でつながれる場所を作る

(長田の物件で過去に行ったワークショップ「まち歩き&デザイン講座」の様子)
(佐藤さんがメインとなって活動している灘中央市場の物件)
(過去のイベントの様子)

今ではコアクションのメンバーそれぞれが各エリアで活動し、今回の塩屋や長田区、灘区でDIYを通して人がつながる場所をつくっている。コアクションのメンバーも少しずつ増えてきているとのこと。聞くとどんどん活発な活動になっているように思うが、渡辺さん曰く「仕事もあるし、それぞれのやることも多く、時間がなかなか取れないのが悩み。」とのこと。その中で楽しみながら手を動かして物件を改修したり、イベントを企画運営したりして、仕事の枠を超えた繋がりを大切にしている。

4.取材を終えて

渡辺さんたちは仕事でも地域を支えている中で、仕事とは関係なくどんどん地域に入っていき、場所を作っていることにとても共感した。全国的に見ても渡辺さんたちのような地方公務員が増えることで、地域がもっと耕されていくように思う。

こうした活動をする人たちに共通しているのは、建物の改修でもイベントの企画や運営でも自分たちが何よりも楽しむことを最優先していることだ。専門家ではないため、失敗や苦労がたくさん出てきてもそれを楽しみつつ、本当に困った時はきちんと専門家に相談しながら活動をしている。物件の改修も、人が集まる場所づくりも、今や専門家しかできないような状況ではなくなってきたと感じた。