シャッター通りとなっている灘中央市場

水道筋界隈は8つの商店街と4つの市場が東西に連なっており、神戸有数の商業地でいつも多くの人で賑わうエリア。その中心辺り、灘センター商店街と灘中央筋商店街の間にYの字型に東西に伸びる通りが灘中央市場だ。大正14年にできた歴史ある市場は、市場内に一歩入ると昭和の世界にタイムスリップしたかのよう。ただ、メインの水道筋商店街の賑わいとは打って変わり、シャッターが目立つ通りとなっている。

(メインの水道筋商店街は多くの人で賑わう)
(灘中央市場の入り口)

空き区画に畑

灘中央市場に入り、通りを進んでいくとポツンと明るい区画が目に入る。ここが「いちばたけ」だ。覗いてみるとプランターが並び、数組の家族が楽しそうに収穫をしている。この日は定期的におこなっている農作業や収穫ができる開放イベントを行っているとのことだった。

(薄暗い中に光が差し込む)
(日差しの中プランターで作物が育てられていた)

いちばたけのはじまり

いちばたけを運営しているのは「チームカルタス」。きっかけは約2年ほど前。もともとは神戸市職員の担当者として水道筋界隈に関わっていたという佐藤直雅さん(2021年現在は別部署へ異動)。建築職として密集市街地の改善に向けたまちづくりを担当されており、まちのことを知っていくうちに、再開発を行い、安全にしていくことも必要と感じる一方で魅力とポテンシャルに惹きつけられ、仕事ではできないプライベートの面から今あるものを活かしつつ何かしたいと思い始めたとのこと。

(いちばたけになった空き区画)

2018年秋、丸山公也さん(神戸市農業職)と職場の会議で知り合った。彼もこの水道筋界隈で生まれ育ち、愛着のあるこの地を盛り上げたいという気持ちを持っていたことから彼の強みを生かして「畑」をすることになった。2019年春に「チームカルタス」結成。市場の中に畑を作る構想の具体化を開始した。

また、元々この地域にまちづくりやコミュニティづくりに携わっていた坂本友里恵さんは、佐藤さんと丸山さんの想いに賛同して、畑づくりに参画した。自身の職能である「企画運営」の力を生かし、3人がチームとなってこのプロジェクトを進めてきた。4月にチームを作り、数ヶ月後には作物を収穫できるまで進んだのは3人が力を合わせ、また畑整備に関わるまちのみんなと共に作り上げて来れたからだという。

みんなとつくった特徴的なエピソードがある。チームメンバーと市場内の精肉店の方とで、畑を作るということで雑談をしていた時に、「市場の畑で”いちばたけ”はどうか」と一言。すぐにこの畑の名前は「いちばたけ」に決まった。

いちばたけの整備と同時並行で、賃貸物件として出ていたいちばたけ前の空き店舗の1区画を借り、そこを仲間たちとDIYで改修した。元々DIYを始めたきっかけは、同じ職場の仲間達と「コアクション」というチームを作り、プロに実践的な建築を学びながらDIYの方法を教わったことにある(記事はこちら)。そして佐藤さんは2Fに住みながら、1Fをシェアスペース”いちま”として運用をはじめた。「このいちまは、DIYに関わってくれたメンバーを中心に利用が始まったが、まだまだ地域の方に活用してもらうには課題もたくさんある。」とのこと。

(みんなでDIYを行い扉が完成したときの様子)
(1Fのシェアスペース「いちま」)

メンバーと一緒に手探りでいちばたけを作っていくうちに、近所の方や子供たちがだんだん出入りをしたり、前を通る人が立ち止まったり利用してくれるようになった。

普段は近所の方と一緒に作物を作り、収穫をしている。1ヶ月に1回程度「開放Day」というイベントを行っているようだ。普段の野菜のお世話も、いちばたけにきてくれた人たちが水をやったり、様子を見にきたりしているとのことだった。取材の際にはセロリや菊菜、ネギ、小松菜などが立派にできていた。運営メンバーのひとり、丸山さんは仕事柄農業の知識があり、いちばたけを使ってくれている人たちに作り方や食べ方を教えている。作る作物などはチームで相談しながら決めているとのことだった。

(プランターでもさまざまな野菜を育てることができる)
(みつば)

いちばたけがもたらす新しい種

活動を始めて約2年、近隣の方もこれらの活動に興味を持つようになり、となりの空き店舗オーナーからも「この地域のために貢献したい」「うちの場所も使って一緒に何かできないか」とありがたい相談も出てきたそう。今後の活動に関して伺うと、繋がり始めたコミュニティを大切にしながら、いちばたけ・いちまをこれからも活用できるようにしていくための計画を思案中とのことだった。

(地域の人たちにこれからも使ってもらえるように思案中)

取材を終えて、アーバンファーミングの可能性
ほとんどの店がシャッターを降ろし、活気が無くなった商店街は神戸に関わらず全国的にもたくさんある。そんな中でも小さな1区画が変わるだけで、人が集まり、コミュニケーションが生まれ、それを見た近隣の物件オーナーたちが「何か協力できないか?」と声をかけてくれる。地域が活性化するということはこういった小さな動きが「種」となって、成長していき、住民にとってより暮らしやすいエリアになっていくことではないかと思う。新しくつくるのではなく今あるものを活用する点も広義のリノベーション事例だとも感じた。

また、都市の中での食を通した新しい試みでもある「アーバンファーミング」とは街の中での農の活動のこと。自宅の庭やベランダ、ビルの屋上や空地を活用して野菜や果物を作る。そんなアーバンファーミングにチャレンジする人たちが少しづつ増えてきている。今回取材させていただいたいちばたけもその一例だ。アーバンファーミングは自然との触れ合いはもちろん、農作業を通したコミュニケーションでもあり、世代などの垣根を超えて会話が生まれる面白い試みだなと感じた。

いちばたけはいつでも自由にはいれるとのこと。興味を持った方は、是非とも足を運んで現地の雰囲気を感じて欲しい。


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